IOHKブログ:ブロックチェーンの報酬共有 - 第一原理からの比較体系化

報酬共有スキームの多様な状況と、Cardanoの報酬共有スキーム設計において採択した選択肢

2020年11月30日 Aggelos Kiayias教授 読了時間10分

Blockchain reward sharing - a comparative systematization from first principles

以前の投稿で、私たちはCardanoにおける報酬スキームの目的を特定し、システムとの関わり方に関する一般的なガイドラインを提供しました。

本稿では、よりハイレベルの視点から、ブロックチェーンシステムにおける報酬共有システムの一般的な問題を、第一原理から検証します。繰り返しますが、リソースベースのコンセンサスシステムにおいて2つの包摂的な目的は、以下を奨励することです。

**高いエンゲージメント:**リソースベースのコンセンサスプロトコルは、より多くのリソースがプロトコルの維持にかかわるほど、安全性が増します。もちろん問題は、リソースがその他諸々の事柄にも役立つため(例:プルーフオブワークの場合の電力、または、プルーフオブステークの場合に分散型アプリにエンゲージするためのステーク)、リソースの保有者がプロトコルの維持にリソースを使いたくなるようにインセンティブを付けなければならないことです。

**低いレバレッジ:**レバレッジは分散化に関係します。10人のグループがあったとします。リーダーが1人いて、メンバー全員が常にリーダーの意思に従った場合、リーダーのレバレッジは10で残りのメンバーは0です。反対に、全員の意見が同程度に重要となる場合、全員のレバレッジは1です。これは極端な例ですが、分散化にどのようなタイプのレバレッジがふさわしいかは明白です。ただし、経済的な観点からは、「慈悲深き独裁」が常により効率的です。結果として、分散化には(民主主義とまったく同じように)コストがかかり、したがって適切にインセンティブを与える必要もあります。

では、これまでコンセンサスシステムで検討されてきたアプローチが上記の目的にいかに対応しているかを検証し、体系化してみましょう。ここで紹介する最初の重要なカテゴリーは、ユニモーダルおよびマルチモーダルの報酬スキームです。

ユニモーダル

ユニモーダルスキームでは、保有するリソースを使ってコンセンサスプロトコルにかかわる方法は1つだけです。ここではユニモーダルスキームを2つのサブカテゴリーに分けて検証します。

1. 比例型ユニモーダル

これはもっとも単純なアプローチであり、ビットコイン、プルーフオブワークベースのオリジナルイーサリアム、アルゴランドなどが採用しています。その概念はシンプルです。1団体がx%のリソースを支配するとき、システムはx%の報酬を提供しようとします(少なくともそう期待されます)。これは一見公正なようですが、重大な欠点が伴います。

まず、x%のリソースを持つ人が得るx%の報酬の見積もりが、ノードの運営にかかる個人の費用を下回っている場合を考えてみてください。彼らはエンゲージしない(システムへのエンゲージ率を下げる)か、よりありがちなのが、積極的に他者とリソースを組み合わせて1つのノードを作ろうとします。2人のリソース保有者がそれぞれx%のリソースを持ち、個々のノードの実行可能な運営コストがcのとき、リソースを組み合わせて1つのノードが2x%のリソースを持つようにした方が、結果としてかかるコストが通常2cより少なくなるため、はるかにいいでしょう。これは、集中化への強力な傾向を生み、リソースと組み合せたプールを(通常)1団体が運営することで、高度なレバレッジへとつながります。

実際に、独裁的に運営される単一のノードが出現する可能性は高くありません。これはさまざまな理由によるものです。関係者間の調整における摩擦、集中化の傾向が顕著になった場合にシステムが基盤としているトークンの為替レートが下落する可能性への恐れ、プールを共同で運営するために時として複雑なプロトコルが使用されることなどが考えられます。仮にそうであったとしても、比例型ユニモーダルが分散化を脅かす恐れがあることは明白です。

ビットコインと現在見られるそのマイニングプールのラインナップの集中ぶりが、それを物語っています。(ハッシュパワーではなく)ステークをリソースとして使用した場合に、集中化の圧力が弱まる点は注目に値します。ノード運営にかかるコスト削減につながるためです。しかし、同じ問題は原則として当てはまります。

上記の設定においてさらに不利な点は、その後に生じる「オフチェーン」のリソースプーリングは、台帳の観点から完全に不透明になるため、コミュニティがそれを監視して対応することがより困難になることです。要約すると、比例型ユニモーダルアプローチは単純性という利点はありますが、エンゲージメントの増加およびレバレッジを低く保つという両面において、安定性を欠いています。

2. 量子化比例型ユニモーダル

このアプローチは比例型報酬アプローチと同じですが、基本となるリソースを量子化しています。つまり、自分のリソースが特定の閾値を下回る場合、まったく参加が不可能となる場合があります。定量を持つ場合にのみ参加が可能となります。特に、このアプローチはETH2.0で採用されており、バリデーターIDを取得するために32Etherを出資する必要があります。この量子化アプローチは、参加とレバレッジの点で比例型ユニモーダルアプローチと同じ問題を共有していることは明らかです。にもかかわらず、このアプローチは次の2つの主な理由により検討されています。まず、量子化アプローチを使用することで、リソースベースのコンセンサス設定で従来のBFTスタイルのプロトコル設計要素(IDのカウントが必要なものなど)を改良できます。結果として得られるシステムは、真のリソースベースのコンセンサスほどエレガントではありませんが、従来のBETスタイルのプロトコルは数百ノードが関連するとうまく機能しないため、これは無理もないことです。2番目の理由は、プルーフオブステークの設定に固有のものですが、プロトコルへの準拠を保証する手段として、参加者にペナルティを課そうとしていることです。量子化されたを出資を担保として課すことは、プロトコル違反に対する罰則をより実質的で苦痛なものにします。

マルチモーダル

次にマルチモーダルスキームに移ります。この大きなカテゴリーにはCosmos、Tezos、Polkadot、EOSが含まれます。そしてCardanoもここに含まれます。マルチモーダルスキームでは、リソース保有者は異なる役割を果たし得ます。コンセンサスプロトコルで完全にアクティブなノードになることは単にオプションの1つに過ぎません。マルチモーダルスキームの利点は、プロトコルに様々なかかわり方を提供することです(それに応じて報酬の率も異なります)。より高いエンゲージメントを受容できると同時に、オフチェーンのリソースプーリングを制限できます。例えば、すべてのリソースをつぎ込んでも得られる報酬がノードを実行するコストを下回るときは、別の方法でプロトコルにかかわることができます。この場合、オフチェーンでリソースを組み合わせる傾向は弱まり、システムは(適切に設計されている場合)、この高めのエンゲージメントを回復性の向上に利用することもできます。

次に、マルチモーダルスキームを分類して見ていきましょう。

  • レバレッジ制御なしの代表型バイモーダル: 代表型アプローチは関節民主主義から着想を得ています。システムは選出されたオペレーターたちにより運営されます。このアプローチはバイモーダルです。参加者は、1)台帳の中でオペレーターであると公表すること、または、2)リソースを使ってオペレーターに「投票」すること、もしくはその両方が可能になるためです。代表オペレーター団は定数であり、得票数に基づいて代表者を選択する選挙機能を使用して、通常は固定期間のローリングベースで更新されます。報酬は代表者に平等に分配されます。場合によってはパフォーマンスデータを考慮したり、必要に応じて調整を行います。スマートコントラクトを使用して投票者に報酬が流れるようにすることで、リソース保有者は優れた代表者へ投票すると報酬を受け取ることができるため、投票による高いエンゲージメントを促すことができます(これはこのカテゴリのすべてのスキームに必ずしも当てはまるわけではありません)。このアプローチの不利な点は、レバレッジを制御できないことです。非常に大きな上限の存在を超える可能性もあります。これは、システムが高度にレバレッジされたオペレーターグループを持つ可能性があることを示唆しています。これは、Cosmos、EOS、Polkadotが広く採用しているアプローチです。

代表型アプローチと異なるのが委任型アプローチです。一般に、このアプローチは直接民主主義により近いものです。リソース保有者は自分のリソースを使って直接プロトコルと関わるというオプションがあります。しかし、液体(または権限委譲)民主主義にあるように、自分のリソースを他者に委任することもできます。この結果、コミュニティが選定したオペレーター設定が、事前に代表者数を決めずとも成り立ちます。代表型アプローチ同様、ユーザーエンゲージメントはバイモーダルです。リソース保有者は自分をオペレーターと公表することもできますし、自分のリソースを既存のオペレーターに委任することも、またその両方を行うこともできます。提供される報酬は、委任されたリソースの量に比例し、代表者はオンチェーンのスマートコントラクトにより、多様な異なるレートで支払いを受けることができます。委任型アプローチはさらに2つのサブカテゴリーに分けられます。

  • 報酬上限付き出資ベースの委任型バイモーダル: この委任型アプローチの特徴となるのは、リソースプールの報酬が、オペレーターがコミットした出資額に応じて制限されることです。これにより、単一オペレーターの総レバレッジが制御され、定数に固定されます。残念ながら、このレバレッジ制御機能には、リソース保有者の大小にかかわらず、暗黙裡に同じ制限が課されるという弊害があります。したがって、小規模なリソース保有者にとっては、オペレーターが賄える少額の出資額によりエンゲージメントが制限される一方、少数の大規模なリソース保有者がコンセンサスプロトコルに膨大な影響力を持つに至る可能性もあります。それが、安全性の閾値を超える規模となる場合もあります。レバレッジ制御の観点からは、単一のサイズがすべてに適さないことは明白でしょう。既存のシステムでは、このアプローチを(実質的に)採用しているのはTezosです。

ここまで見てきたすべてのアプローチには、エンゲージメントの最大化、またはレバレッジの制御、もしくはその両方に関して欠点があります。これを念頭に置きながら、次にこの体系化の中にCardanoで使用されている報酬共有スキームのアプローチを位置付けてみます。

  • 報酬制限およびインセンティブ付き出資を設定した委任型バイモーダル: この委任型システム(報酬共有スキーム論文参照)では、各プールに提供される報酬はプールサイズの区分的関数に従います。この関数は当初単調に増加し、特定の「上限」レベルに達すると定数になります。このレベルはシステムパラメーター(Cardanoの場合はパラメーターk)で設定可能です。この上限が個々のリソースプールの成長を促すと同時に、プールへのリソース出資額が高いほど報酬が受けられることにより、プールへの出資が促進されます。結果として、個人のレバレッジを下げることがインセンティブ主導で行われるようになります。リソースプールはサイズに上限があり、オペレーターは運用可能なすべてのリソースをできるだけ少数のプールに出資するよう奨励されます。特に、巨大なリソース保有者は自分のレバレッジを低く保つことでインセンティブが得られます。このアプローチの利点は、高いエンゲージメントが強化されると同時に、コミュニティが、1)可能な限り多くのリソースを出資すること、2)リソースの残りすべてをクラウドソーシングによるフィルタリングメカニズムの一環として使用することをインセンティブ化することにより、レバレッジを制御できることです。これは、ステークを議決権として、システムの目標に実質的に最も貢献しているオペレーターを正しく支援するために利用することになります。

上記の体系化は、Cardanoで採用された報酬共有スキームのデザインを他のシステムで使用されるデザインの中で位置づけています。要約すると、Cardanoの報酬共有システムが達成するのは、インセンティブとコミュニティによるステークに基づいた投票を使って、可能な限り最高の結果、すなわち、低いレバレッジと高いエンゲージメントを実質的に奨励することです。そしてこれは、ステークホルダーからのインプット行動という観点からは非常な異質性を許容しながら、達成されます。

最後に、共同プロジェクトの報酬共有の研究は、ビットコインブロックチェーンの導入以来目覚ましい進歩が見られたものの、依然として非常に活発で成長途上の分野であることを強調しておきたいと思います。私たちのチームは、報酬共有スキームのさまざまな側面を継続的に評価し、第一原理的な方法でデザインスペース全体を積極的に調査しています。このようにして、私たちは、研究の進歩がコミュニティ全体の利益のために広く普及することを保証することができます。

Christian Badertscher、Sandro Coretti-Drayton、Matthias Fitzi、Peter Gažiによる他のシステムのレビュー、および本稿における体系化への協力に感謝します。