Cardanoエコシステムにキーバリューを構築
2020年6月25日 Lars Brünjes 読了時間11分
将来に向け柔軟性を維持しながらも、確固としたパラメーター値を設定することは、Cardanoの成長および現在進行中である分散化への鍵となる。コミュニティとの協議、そして同僚のKevin Hammond、Alex Appledoornとの協働の結果、私たちはふさわしいスタート地点を特定できたと確信している。
Cardano Shelleyのビヘイビアはおよそ20のパラメーターにより制御されている。そしてこれらすべてのパラメーター値は、メインネットへの移行前に設定されなければならい。そのほとんどは技術的な性質が強く、システムの安全性およびパフォーマンスの最大化を保証するためには正確な値を設定することが重要となる。その際、特定の値によりユーザーエクスペリエンスが大きく左右されることはない。
ただし一部のパラメーターの性質はこれと異なる。これは、Cardanoエコシステムの中央集権レベルおよびサステナビリティを決定するものだ。また、委任と、ステークプール運営の経済をけん引するものでもある。適切なパラメーター値を選択することは一筋縄ではいかない。セキュリティ、パフォーマンス、安定性、サステナビリティ、分散化、公正性、経済的継続性といった様々な重要なファクターを注意深く調和させる必要があるためだ。
Cardanoブロックチェーンの全パラメーターに関し、私たちは3つの明確なゴールを念頭に置いている。
- 1当事者がチェーンのインテグリティを脅かすことができないよう、正しく分散化を果たす
- ステークプールオペレーターがチェーンをサポートし続けるようインセンティブを付与する
- いずれの時点においても、オペレーターの収入の安定性を脅かしかねない重大な変更がインセンティブに生じることを回避する
私たちは、Cardanoに参加してステークプールを運営することを望むすべての人々に平等な機会を与えたい。しかしながら、小規模のプールには公正で妥当に見えるパラメーター値が、大規模なプールにとっては難易度が高い、またはその逆のケースもあり得る。例えば、大規模プールは、小規模なプールが用立てできないような高額の出資を設定することができる。一方小規模プールは、大規模プールよりはるかにローコストでの運営が可能だろう。
また、頻繁にパラメーターを変更することも軽率だろう。これはオペレーターの収入の安定性および予測可能性に負の影響を与えかねないからだ。こうした点をすべて考慮した結果、以下に概要を示すような初期推奨パラメーター値に達した。
ただし、私たちはここで満足しようとは思っていない。分散化は民主主義をもたらす。コミュニティはチェーンがいかに運営されるかについて意思を表明しなければならない。このため、私たちはこうした数値をまず実行し、Cardano改善案(Cardano Improvement Proposal:CIP)を提出する。ここでコミュニティは最適なチェーンパラメーター値に関し投票することができる。最終的に、CardanoのガバナンスはCardanoコミュニティに託される。私たちは、コミュニティこそ最適の助言者であると確信している。
望ましいステークプール数
望ましいステークプール数kは重要なパラメーターだ。Cardanoインセンティブは、kの完全に飽和したプールと均衡するように設計されている。すなわち報酬は、全ステークがkの最も魅力的なプールに一様に委任されたとき、全員にとって最大となる。
kの値を高くすると、システムの分散化は増す。しかし、kを高くするほどシステムの効率は下がり(コスト、電力消費量の増加)、委任者とステークプールオーナーともに報酬は下がる。インセンティブ付きテストネット(ITN)とHaskell Shelleyテストネット両方から学んだことは、コミュニティはプールのセットアップに非常に意欲的であり、数週間内に何百ものチェーンをサポートしようとすることだ。
ここから、分散化のある程度の成功は、比較的速やかに達成され得るし、また達成されると言える。しかし、分散化だけでは十分ではない。Cardanoはオペレーターによる長期的な関与を必要とし、逆に言えば、オペレーターはシステムをサポートし続けるために十分なインセンティブを必要としている。
分散化とステークプールオペレーターへのインセンティブをうまく両立させるために、私たちはk=150を初期値として、これを徐々に高めていくことを提案する。私たちはこの値により、初期にはシステムの安定性と効率性が確保され、その後徐々に分散性(および安定性も)を高めていくことができると確信している。
ステークプール数150はCardanoの分散化が他のブロックチェーンよりもほぼ1桁抜きんでていることを示す数である。そしてこれは始まりに過ぎない。将来何千ものステークプールが存在し得ないとする根拠はどこにもない。
通貨量拡大
委任者とステークプールオペレーター双方にとって、ステーキングによる報酬は2つのソースから得られる。トランザクション手数料および通貨量拡大である。具体的には、エポックごとに、そのエポックで生成されたすべてのブロックに関する各トランザクションから生じたトランザクション手数料は、仮想「ポット」に収められる。さらに、残りのADAリザーブ(準備金)から定率 p
がポットに追加される。次に、ポットから一定の割合 T
がトレジャリーに送られ、残りがエポックの報酬として使用される。
このメカニズムにより、当初ユーザーがCardano上でビジネスを構築し始めたばかりの頃はトランザクション数は比較的少ないが、リザーブから得られる報酬用取り分は高い。こうして、初期の参加者には、動きやすく、初期の高い報酬から利益を得られるという大きなインセンティブが提供される。時間が経つにつれ、トランザクション量は増加し、追加手数料がリザーブの縮小を相殺する。
また、このメカニズムにより報酬額の予測を可能とし、漸進的変化を確保できる。ビットコインに4年ごとに生じるような突然の「ジャンプ」は起こらない。その代わり、残りのリザーブからエポックごとに定率が引き出されることにより、スムーズな指数関数的減少が保証される。
では、適切な p
の値とは何か。また、トレジャリーへの送金額とは。ここでもまたトレードオフが必要となる。p
の値が高くなると、当初全員の報酬額は高くなり、トレジャリーは素早く貯まる。しかし、p
が高いということはそれだけリザーブの枯渇が早くなる。高い報酬を払い、初期参加者にインセンティブを提供することは、特に当初は確かに重要である。しかし、全ステークホルダーのために長期的展望を提供することも重要だ。
前述したように、Cardanoのリザーブが枯渇することはない。代わりに生じるのは指数関数的減衰だ。p
の特定の値が与える影響を実感するには、「リザーブ半減期」を計算してみるといい。リザーブの半額が使用されるのにかかる期間である。
熟考の結果、p
値として提案されるのは0.22%である。この数値によるリザーブ「半減期」は4、5年である。言い換えると、4、5年ごとに、残りのリザーブの半分が使用されることになる。これはおよそ4年ごとの「ビットコイン半減期」に近い。つまり、Cardanoのリザーブはビットコインとほぼ同じ割合で減少する。
ビットコインが適用と価格の最大に達するのに約8年かかったことは注目に値する。それゆえ、私たちはCardanoのトランザクション量と為替レートが今後8年間で十分に増加し、その間に生じる通貨量拡大の縮小を相殺する以上のものとなると期待するのは理にかなっていると感じている。
リザーブからトレジャリーへ
私たちはまた、エポックごとに報酬から自動的にトレジャリーに送られる割合Tの初期値5%を提案する。これは、少なくとも5年間に3億8000万ADAがリザーブからトレジャリーに送金されることを意味する。
しかしながら、トレジャリーへの実際の送金額はこれよりもさらに高くなるだろう。まず、ITNでの経験および今後のADA使用に関する予想から、すべてのADAが委任されると推定するのは理屈に合わない。取引所に置かれているもの、トランザクションに使用されているもの、そしてさまざまなスマートコントラクトに使用されているものがあるだろう。委任されていないADAの分、受取人のいない報酬分が生み出される。こうした「受取人のいない報酬」もまた、トレジャリーに追加されるため、総額はおよそ19億ADAに跳ね上がる。
2番目に、ほとんどのプールの出資額は特に高く設定されるとは思えず、シビル攻撃を仕掛ける気にならない程度の高さに留まると思われる。極めて高い出資額を設定したプールとより現実的な出資額設定のプールの報酬差も、トレジャリーに追加されることが期待され、その追加額は5年間で10億ADAに上ると予想される。こうしたADAがすべてトレジャリーに入るということは、近い将来エキサイティングな新機能や拡張機能を賄うに十分な資金が得られるということを意味する。
出資影響要因と最低運営コストの設定
プールオーナーが出資するADAは「シビル」攻撃への重要な防衛となる。大量のステークを持たずに多数のプールを作成してシステムを攻撃しようとするオーナーの持つプールに、ステークを委任する側がそれほど惹きつけられないためだ。この点についての詳細は、私とKevin Hammond、Duncan Couttsの3人で、最近Cardano Effectショーで説明した。
出資影響要因はプールが獲得する報酬に直接的に関係する。影響要因が高いほど出資額を上げることによる報酬への違いが増す。影響要因が高いとシビル攻撃への防御力が高まり、システムの安全性が増す。しかし、同時に、高額出資が可能なステークプールオーナーに有利となる。
高い出資額は高い運営コストを相殺しうる。比較的高いコストはそれにふさわしい報酬を維持でき、出資を増やすことにより委任者への魅力を維持できる。私たちは、さまざまな実世界の状況下で(合わせておよそ100万ほど)さまざまな出資影響要因をテストしてきた。影響要因幅は0から無限まで設定可能だ。ここで選択されたのは、シビル攻撃への防御力と必要な出資額とのバランスをとった0.3だ。
ただし最低出資額は設定されていない。プールオペレーターは出資額を低くも高くも自由に設定できる。報酬は彼ら自身の選択に影響される。しかし、特定の出資額を強制する「厳しい」ルールはない。つまり、究極的にプール出資額はプールオーナーが望むだけの高さになるし、攻撃への防御力、経済的側面、そして公正かつ平等な機会への欲求のバランスが取れたスイートスポットを見つけるのはコミュニティの任となるだろう。
最低運営費用を設定することは、出資影響要因の有効性を確かなものとする。競争上の優位性を得るためにプールオーナーが極端に低い運営コストを設定する「底へ向かってのレース」を避けることになるためだ。これは、短期的にADAステークホルダーの利益となったとしても、長期的にはプロフェッショナルなプール運営を非インセンティブ化することによりCardanoネットワークの健全性を損なうリスクを持つ。
プールごとの典型的なプール運営コスト(Typical Cost:年間)分布、2020年5月熟練プールオペレーターへのアンケートより
実際の運営コストが低いオペレーターは最低運営コストの設定により大きな利益を得ている。最低運営コストとプールの実際のコストの差額が、マージンとステーキングから得られる報酬に加算されるためだ。調査によると、上図の通り、典型的な運営コストはプールごとに年間$2,000~$15,000が期待される。したがって、私たちは最低運営コストを$2,000に設定した。
エポックごとの通貨量拡大率を0.22%と推定した際の、ステークプールの平均投資利益率(ROI)の予想範囲
最後に、さまざまな実世界のシナリオにおけるステークプールの予想利益を計算した(総プール数約150,000)。影響要因、通貨量拡大、最低コストの設定には、前述した設定および、150から500までのさまざまなプールのターゲット数を使用した。結果として、上図が示すコスト分布の場合、ステークプールは平均6%~6.5%という持続可能なROIを達成する(現在のADAドル為替レートを使用)。ROIはADAの相場が上がればもちろん上昇する。
結論
Cardano Shelleyの全パラメーターに適切な値を選ぶことは困難かつ複雑な試みである。一方でシステムのセキュリティ、効率、安定性を考慮しながら、他方でステークプールオペレーターや委任者たちの経済的成長性、さらにエコシステムの長期的なサステナビリティといったさまざまな懸案事項のバランスを取らなければならない。
私たちが今行っていることを今までになしたブロックチェーンは他にない。私たちは、一歩一歩新たな領域を切り開き、科学とテクノロジーの最先端を動いている。したがって、既存のデータや統計、過去の経験に頼ることはできず、鍛錬された推測と数理モデルを使用するしかない。これはたいていの場合、完ぺきではあり得ない。
合理的な提案となるよう努力はしたが、時間の経過とともに改良すべきものであることはわきまえている。ここで提案される値はあくまでスタートポイントであり、今後数か月、数年をかけて、コミュニティと密接に連携して調整、改良を進めていきたい。