IOHKブログ:MarloweでP2P金融を再解釈

Marloweで金融ツールを分散化し、誰でもP2P金融契約の作成や実行が可能に

2021年5月26日 Shruti Appiah 読了時間6分

しばらく前に、私は上場投資信託(ETF)を購入するために株取引プラットフォームにログインしました。ところが、プラットフォームがダウンしていたのです。GameStop株の急騰により、かなりの数の取引プラットフォームが一時的にシャットダウンされたことが判明しました。金融危機の最中だったわけでもなく、銀行や証券会社が警告もなく自分の資金を使えないようにするとは夢にも思いませんでした。私はいつでも自分の資金にアクセスし、取引を行い、利益または損失を得ることができると思っていました。このサービスのために私は高い料金を払っているのです。

続く数日間、他のいくつかの株式ブローカーや取引プラットフォームは、ユーザーがブローカー自身に都合のよくない取引を実行することを妨げ始めました。金融を民主化するプラットフォームとして自らを位置付けていたRobinhoodは、自己のユーザーによるGameStop株購入に対し完全な検閲を行いました。私たちは本当に自分のお金を管理できているのでしょうか。

私たちのほとんどすべてが自分の資金をなんらかの第三者に保管しており、それらの資金にアクセス、使用、または閲覧することですら、その可否や時の決定は彼らの裁量に任されています。こうしたサードパーティの銀行やブローカーの共通点は、中央管理ポイントを持つことです。RobinhoodやGameStopのケースでは、この集中化がいかに障害につながるかが示されました。中央管理ポイントは外部の利己的なアクターから影響、攻撃、または操作を受けやすく、金融の民主化とは対照的です。

これが、一般にDeFiとして知られる分散型金融の主な動機です。DeFiは、ウォール街が提供する、貸付、エスクロー、デリバティブ、スワップ、証券などと同様の、金融ツール一式を提供します。DeFiプラットフォームの違いは、中央のマーケットメーカー、銀行、ブローカーを必要とせずにこれらの金融商品を提供できることです。各金融契約は、ブロックチェーン上のスマートコントラクトとして表され、アルゴリズムによって解決されます。分散型という性質により、市場操作や集中型システムの障害に対してはるかに高い回復力を持ちます。

現在、私たちは金融の民主化と金融契約への容易なアクセスを可能にするMarlowe製品スイートを開発しています。これには、ユーザーが友人やクライアントと自分で既成の金融契約を安全かつシームレスに実行できるようにする新製品、Marlowe Runが含まれます。自動化機能の追加と第三機関が不要になることで、このP2Pソリューションは費用効果の高さもさることながら、民主化されたものである点が特に重要です。

Marloweスイートとは

私たちはMarloweによってブロックチェーン上で実行されるP2P契約を利用可能にすることで、金融の民主化を目指しています。人々が独自の金融商品を作成し、取引したい相手と契約を結べるようにしたいと考えています。Marloweは一連の製品を提供し、各製品は異なるユーザー集団向けに別個の機能を提供します。Marloweの包括的な製品戦略は、開発者向けMarlowe、エンドユーザー向けMarlowe、エンタープライズ向けMarloweの3つのラインで構成されています。

開発者向けMarlowe

開発者向けMarloweには、Marlowe Build、Marlowe Play(またはMarlowe Playground)、そしてMarlowe Libraryへのインプットがあります。Marlowe BuildとMarlowe Playは共に、エンドツーエンドの金融スマートコントラクト開発を可能にします。

開発者はMarlowe Buildでスマートコントラクトコードを作成できます。次に、Marlowe Play上でシミュレーションを使用して予備的なイテレーション設計を実行し、スマートコントラクトのフォーマル検証およびテストを行うことができます。こうした機能と金融専用に作られたドメイン固有言語(DSL)により、コントラクトが簡単に構築でき、その安全性と検証可能性、および厳密なテストが確保されます。構築およびテストが済むと、開発者はこれをオープンソースのスマートコントラクトテンプレートライブラリーであるMarlowe Libraryに提供できます。

エンドユーザー向けMarlowe

エンドユーザー向けMarloweは、ユーザーが友人や同僚、またはクライアントと、ブロックチェーン上で金融契約を実行するための直感的で簡単かつシームレスなインターフェイスを提供します。これにはMarlowe Runが含まれ、Marlowe Libraryのさまざな金融商品テンプレートへのアクセスを提供します。これらの製品はユーザー視点に立って設計されています。Marlowe Runで金融契約を作成するにあたり、ユーザーはブロックチェーンの詳細もスマートコントラクトの作成方法も知る必要はありません。コントラクトのステップごとに非技術的な言語による説明があり、各アクションはユーザーの明示的な許可がある場合にのみ実行されます。私たちのチームは、Marlowe Runで使用できるエスクロー、債務証券、スワップなど、厳密にテストおよび検証された一連の金融ツールを構築しました。これら、そしてさらに多くのオープンソースの検証済みコントラクトは、Marlowe Libraryから利用可能です。

エンタープライズ向けMarlowe

エンタープライズ向けMarloweは、DeFiを個々のユーザーを超えて拡張し、企業がスマートコントラクトの具体的なメリットにアクセスできるようにすることを目指しています。これには、金融契約用にアルゴリズム契約タイプ統一標準(Actus)を採用したスマートコントラクトテンプレートの提供とともに、商用ユースケースに合わせて調整した特別仕様のカスタマイズ可能な一連の機能と金融契約が含まれます。

CardanoへのMarlowe実装

2020年、Marlowe Playground Alphaが発表されました。これにより、Haskellに加えてJavaScriptを使用した、もしくは直接Marlowe自体を使用したコントラクトの作成が可能になりました。また、これにはプルーフオブコンセプトOracleが含まれており、株式市場の「ティッカー」や将来的にはCoinbaseなどのデータフィードから、価格などの外部データに直接アクセスできます。また、ロールアウトをサポートするために、開発者向けチュートリアルを公開しました。以来、これを基盤として構築を進め、ユーザーエクスペリエンスの改善を続け、さらに多くのスマートコントラクトテンプレートの構築、テスト、検証を行っています。

Marloweは、Goguen(ゴーグエン)ロールアウトの一環としてCardanoへの実装を終えようとしています。ユーザーや企業はDeFiコントラクトを自分自身で作成、またはコントラクトリポジトリからダウンロードして実行する機会が得られます。MarloweはまずCardanoブロックチェーンで実行されますが、特定のブロックチェーンに囚われるものではないため、将来的には他のブロックチェーンで実行され、より幅広いユーザーを獲得する可能性があります。

今後の予定

エンドユーザー向けMarloweは2021年を通じて段階的にオンラインにもたらされます。最初はMarlowe Runのプロトタイプです。ここではユーザーはデモと、自分の金融契約を試すことができます。これには金融スマートコントラクトのテンプレート一式が含まれ、ユーザーはニーズに合わせてカスタマイズすることができます。プロトタイプでは、ユーザーは中間マージンを要求する第三者機関なしにP2Pによる分散型方式で金融契約の作成を体験できます。Marlowe Runプロトタイプを使用するために、実際のトークンを所有する必要はありません。始める前にデモを試してみることができます。本ロールアウトには、社内の開発者が構築した金融商品のテンプレート一式が含まれます。これらのテンプレートは、Marlowe Runでテスト契約を実行するために使用できます。Marlowe Runのデモは今月のCardano360(5月27日配信)で紹介しますので、ぜひご参加ください。

私たちは、世界中の人々が独自の金融商品を思うがままに構築、管理、実行できるようにするMarloweエコシステムの製品スイートの提供に取り組んでいます。

現在Marloweを使ったDeFiウェビナーシリーズを企画しています(6月3日開始)。現在ウェブサイトでウェビナーへの登録を受け付けています。