IOHKブログ:人々にパワーをもたらすProject CatalystとVoltaire

Cardanoを長期にわたり成長させる足固めが、Catalystプロジェクトのトレジャリーと民主的投票により開始された

2020年9月10日 Bingsheng Zhang 読了時間7分

Project Catalyst & Voltaire bring power to the people

最先端のプルーフオブステークブロックチェーン設計には、システムの自立性を確保することが極めて重要である。これにより、真に分散型の、有機的な成長と熟成が促進される。この機能性を確立するIOHKの手法がVoltaire(ボルテール)だ。コミュニティはCardanoブロックチェーンを維持しつつ、提案やシステム改良の実装によりその開発を継続することができる。これは意思決定権をADA保有者の手に委ねるものだ。

堅固なブロックチェーン構築の中心に位置するのは厳密な研究だ。7月に開催されたShelleyサミットでは、Cardanoの成長に欠かせない資金調達の重要性に関するプレゼンテーションが含まれていた。これは、ランカスター大学とIOHKの共同研究によるトレジャリーシステム、および、長期的なCardano開発の資金調達への効果的かつ民主的なアプローチの概念に基づいている。IOHKは現在、Project Catalystにトレジャリーメカニズム機能を適用している。これは、Cardanoコミュニティ内にオープンで民主的な文化を確立するために、研究、社会実験、そしてコミュニティの同意を組み合わせたプロジェクトだ。

民主的アプローチ

ブロックチェーン技術の急成長により、世界各地でさまざまな業界にわたりプラットフォームの出現が相次いでいる。技術的成長と熟成は長きにわたるブロックチェーンの持続性および発展に欠かせない。このため、成長とシステム向上をサポートし、資金を調達する必要がある。民主的アプローチはブロックチェーンエコシステムに組み込まれている。なぜなら、サステナビリティに関する意思決定を、中央運営母体に頼らずに、協力して実行することができるためである。したがって、運営と意思決定プロセスは集合的なものでなければならない。これにより、ユーザーはどのように改良がおこなわれるか、誰が決定を行うか、そして最終的にはこうした選択を行うための資金はどこから来るのかを理解することができる。

長期的サステナビリティ

開発目的のために資金を募る方法は複数ある。寄付、ベンチャーキャピタルファンディング、新規仮想通貨公開(ICO)などが最も一般的だろう。しかしながら、こうしたモデルは初期資本を調達する際には有効であるものの、長期的な資金源を確保したり、開発や維持に必要な資金額を予想するには向いていない。さらに、こうしたモデルは集権的コントロールを受けやすく、万人がニーズと目的で合意に達するのは困難だ。

ブロックチェーン開発の長期的資金源を確立するために、暗号通貨プロジェクトの中には徴税を適用するものもある。手数料や報酬から一定割合を差し引き、別のプール「 トレジャリー」に貯めていくのだ。トレジャリー基金はシステムの開発や維持を目的として使用できる。さらに、トレジャリーの積立金は暗号通貨価値の上昇に伴うインフレーションにも対応できる。これは、潜在的な資金拡大源となり得る。

ただし、ファンディングシステムは開発の方向性に関する意思決定を行う際に、集権的になりやすいというリスクがある。こうしたシステムにおいては、組織または企業の一部の人材のみが、利用可能な資金をどのように、どのような目的で使用するかについての決定権を委ねられる。ブロックチェーンの分散型アーキテクチャーを考慮したとき、資金調達に関するコントロールを集権化することは不適切であり、組織のメンバーから異議が生じ、複雑な論争に帰結する。

トレジャリーシステムとCardano

いくつものトレジャリーシステムが、この問題に対処するために登場した。こうしたシステムには、プロジェクトへの資金調達提案の提出、議論、投票という、「トレジャリー期間」の反復で構成されるものもある。しかし、共通する弱点として、投票者のプライバシーや投票用紙送信におけるセキュリティの脆弱性が挙げられる。さらに、マスターノードが強制を受けた場合、または専門家の関与が欠けている場合に、非合理的な行動が促進され、資金調達に関する決定の健全性が脅かされる恐れもある。

第三世代暗号通貨プラットフォームとして、Cardanoはそれ以前のプラットフォームが直面した難題を解消するために作り出された。

Cardanoは、全員に権利を与え、それ故に公正な意思決定が担保されるよう、プロセスに民主主義をもたらすことを目指している。このために、透明性に優れた投票および資金調達プロセスを導入することが不可欠である。ここにVoltaireが投入される。

トレジャリーシステムと暗号通貨についての論文は、ブロックチェーンを開発、維持する資金をサステナブルに調達できるよう、コミュニティ主導の分散型かつ協調的な意思決定メカニズムについて論じている。この協調的知能へのアプローチは、「液体民主主義」、すなわち直接、間接民主主義双方の利益を提供するハイブリッドなシステムに立脚している。

このアプローチにより、トレジャリーシステムは投票プロセスに関して専門家の知識を利用できると同時に、ADA保有者に確実に投票の機会を与えることができる。したがってプロジェクトごとに、投票者は直接投票を行うか、そのトピックの専門家であるコミュニティメンバーに投票を委任することができる。

サステナビリティを確保するために、トレジャリーシステムはコミュニティにより管理され、以下のような潜在的財源からコンスタントに補充される。

  • 資金調達用にリザーブされた新発行コイン
  • ステークプール報酬およびトランザクション手数料の一部
  • 追加的寄付またはチャリティ

資金は継続的に蓄積されるため、プロジェクトの資金調達や改良提案への支払いが可能となる。

資金調達プロセスは、以下の段階に分割される「トレジャリー期間」で構成され得る。

  • 投票前
  • 投票時
  • 投票後

各期間においては、プロジェクト提案が提出され、専門家および投票者による話し合いがもたれ、最後に最も必要なプロジェクトに資金を投入するための投票が行われる。誰もが提案を提出できはするものの、一定の提案のみがネットワークの発展における重要性および望ましさに応じて支持されるようにもできる。

投票および意思決定

どのプロジェクトにまず資金を投入するべきかを理解するために、意思決定プロセスについてみてみよう。

トレジャリー投票に参加するADA保有者には、科学者や開発者、マネージメントチームのメンバー、投資家、そして一般の人々が含まれる。各自がシステムの成長について、異なる役割を担っている。したがって、協力し合えるような選択や願望を見つることが可能な方法が必要である。

このため、投票権は所有するADAの量に比例する。ADAを所有していればいるほど、意思決定における影響力は強まる。液体民主主義のアプローチの一環として、そして直接的な「はい/いいえ」で投票するにあたり、個人は投票権を信頼する専門家に委任することができる。この場合、専門家は自分が最も重要と見なす提案に直接投票できる。投票後、プロジェクト提案は「はい/いいえ」の得票数に基づきスコア化され、最終選考用のリストが作られる。最も弱いプロジェクト提案は淘汰される。最終選考のリストはスコアに応じて順位化され、トレジャリーの資金が尽きるまで最高位の提案から順に資金を充てていく、ということができる。意思決定プロセスを段階に分けるという戦略により、改良の優先順位に関して合意に達することが可能となる。

投票者のプライバシーを守るために、研究チームは「対数サイズの通信による単位ベクトル暗号化の正直な検証者ゼロ知識証明」を編み出した。ゼロ知識テクニックは、基になるデータを明かすことなく物事を検証するために使用される数学的手法である。このケースにおけるゼロ知識証明は、投票者が自身に関する情報を、投票権があるということ以外何一つ明かすことなく投票できることを意味する。これにより、投票者への強制の可能性が排除される。

トレジャリーのプロトタイプはベンチマークのためにIOHKが作成している。Voltaireの基盤としての研究を実装することは、信頼性と安全性に優れたトレジャリー投票および意思決定方法を配信するのに役立つ。Project Catalystは、Cardanoコミュニティにおける民主的文化の確立に焦点を当てた、提案および投票手続きを組み合わせた実験的トレジャリーシステムである。当面は、Cardanoのトレジャリーはステークプール報酬の一部により補充され、サステナブルな財源が確保される。他のブロックチェーンもトレジャリーシステムを有するが、IOHKのそれはゼロ知識証明を通じた完全なプライバシー、専門家の関与と投票の委任による液体民主主義、そして、一部の運営チームだけでなく全員参加を組み合わせている。これにより、公正で透明性の高い意思決定への参加、インセンティブ化、分散化が促進されるだろう。

さらに、このトレジャリーシステムは、Cardanoだけでなく、さまざまなブロックチェーンに実装可能であることも特筆に値する。すでにEthereum Classicへの導入が提案されている。このプロセスにおいて、トレジャリーシステムは全員がいかにネットワークが発展するかを理解することができるのである。

この夏に始まった限られたユーザーグループによる試用が無事に実施されたことを受け、Project Catalystはもう間もなく最初の公開ベータプログラムを開始する。今だCardanoオンチェーンガバナンスは初期段階であるとはいえ、コミュニティが照らす道の向こうには明るい未来が輝いている。Voltaireの更新情報や、今後Project CatalystがCardanoのサステナビリティの道をいかに整えていくかについては、ぜひブログでフォローしていただきたい。

6 Likes