IOHK ブログ:ブロックチェーンガバナンス - 哲学とビジョンから実世界のアプリケーションへ

ブロックチェーンガバナンス - 哲学とビジョンから実世界のアプリケーションへ

Cardano分散化ビジョンの中核にある堅固で効率的なコミュニティガバナンス。この夏Project Catalystがその理論をテストする

2020年8月5日Olga Hryniuk読了時間8分

概要

広範化するグローバルな諸問題に対応するには、従来のトップダウン型のガバナンスでは非効率であり、ボトムアップ型の分散型システムが適していることは、P2Pネットワークによる諸例からも明らかとなっている。

ブロックチェーンを基盤とした分散型ネットワークを提供するCardanoは、全員が意思決定に参加できる透明性、説明責任性、反応性に優れたガバナンスモデルとして、投票システムおよびトレジャリー(財務)システムを備えたモデルを構築している。

Cardano開発期のなかで、この分散型ガバナンスおよびコミュニティによる意思決定を扱うのがVoltaire(ヴォルテール)期である。ここでは、トレジャリーシステムと投票を可能にする分散型ソフトウェアが導入されるが、現在コミュニティへ技術的な説明を行うためのソーシャルコミュニケーションシステムであるCIP(Cardano改善提案)および提案、投票を組み込んだ実験的なトレジャリーシステム、Project Catalystが進められている。これにより、将来のCardanoが取るべき方向性について全ADA保有者による民主的な投票に基づく決定を下すことが可能となる。

また、この決定を支える資金調達源として自立的なトレジャリーシステムを採用している。これは世界的ニーズを満たす分散型金融システム構築への第一歩である。

ガバナンスおよび意思決定に分散型アプローチを採用することは、前世紀に多くの地域で規範となった中央集権的な権威に基づくモデルよりも効率性に優れていることが、多くの分野で証明されてきている。IOHKでは、ブロックチェーン技術が集団行動への参加を奨励する方法を提供すると確信しており、現在まさにそうしたシステムを構築している。Cardanoは公正な分散型の手段で成長し、そのオープンなガバナンスシステムは、ADA保有者に意思決定権を授けることによりグローバルな参加を奨励する。

グローバルガバナンスの中核をなす分散化

この作業を進める中、パンデミック危機によりグローバル経済の弱点が暴露され、国際的危機に直面する中で協力体制を見直す必要が明示されている。この数十年間で、世界はかつてないほどデジタルインフラおよびソーシャルプラットフォームを通じた繋がりが強まっている。したがって、頑丈なツールと新たな行動パターンが協力体制を向上させるために必要となる。

かつては、重大な集団的課題は、高位のアクターがトップダウン型の支配により中央集権的に対処してきた。このガバナンスモデルにおいては、権力、権威、コントロールは管理者レベルで決定および行使されてきた。すなわち経営責任者、プレジデント、またはディレクターといった立場の人間により「最適」な行動が決定される。こうした中央集権システムにおいては、いったん意思決定がなされると、これがその地の法となり、新たな行動が強制されることになる。しかし、このトップダウン型モデルは、世界規模という広範な課題を解消するには非効率である。デジタルエコシステムの組織化および変容のアドバイザーであるMihaela Ulieru博士は、最近開催されたCardanoバーチャルサミットで「ボトムアップ型」の有機的ガバナンスというビジョンについて語っている。ここで彼女は、階層的構造は柔軟性に欠け、生産性が低いうえに、昨今の複雑化に効果的に対応できないと指摘している。

中央集権的なガバナンスモデルは、1人または1つの集団の持つ限られた知識、専門性、理解に頼っている。そして、決定事項は発生する諸問題に対処するためにシステムを通じて急増する。その結果、特定の事柄により影響を受ける人々からの現場の情報を欠いた、柔軟性のない反応が生じる。したがって、問題の複雑性と範囲が増すほど、トップダウンの組織が大半の人々に作用するような形でこれに対処するための準備が不足することになる。ここから、新たに発生する諸問題に対応し、意思決定を助け、包括的であり続けるためのシステムは、どうしたら創造することができるのか、という問いが生じてくる。

Ulieru博士は、ボトムアップ型のアプローチがP2Pネットワークで最大限に活用され、ネットワーク参加者がコミュニティの望みとニーズを反映するような方法で協力することを可能にしていると指摘する。2017年、ハリケーン「ハービー」が米国南部を襲ったあとにJon Coleが組織したSoScial.Networkはその一例である。このネットワークにより、人々やコミュニティが集まり、災害被害者への救助を提供することで互いに助け合うことを可能になった。別のソーシャルネットワークChefsForAmericaは、病院や社会的弱者、必要とする人々に食料を届けるものだ。AgeWellはP2Pのケア提供モデルを構築。高齢者の福利、健康を向上させ、彼らを家庭にとどめながら、医療費を削減するよう努めている。分散化された形で個人により組織されるこうした活動は、問題をより迅速にかつ協力して解消することができる。

Cardano分散化

意思決定に関し効果的に協調するため、Cardanoはブロックチェーン上に分散型ネットワークを構築して高レベルの安全性と透明性を提供している。これはP2Pネットワークコンセプトをさらに進め、グローバルなインフラストラクチャーに組み込んだものだ。Cardanoが堅固なガバナンスモデルを確立するためには、全員が透明性、説明責任、反応性に優れた方法で確実に参加できることが重要だ。分散化によって個人やコミュニティが行動を起こしたり協調したりできるようになると、誰もが変更や起こすべき行動を提案することができるようになる。そしてそれは社会のためになることでも技術的な進歩でも構わない。

問題は、どの変更が重要で、何が確実に全員の利益となるかを、どのように決定するか、ということである。またここで重要なのは、その実現のための経費は誰が払うのか、ということだ。こうした問題を解消するために、Cardanoはグローバルな投票およびトレジャリー(財務)システムを確立し、ブロックチェーンの長期的開発を支えようとしている。意思決定と資金調達はガバナンスの2つの重要なコンポーネントである。IOHKでは、これらの問題の解消と、分散型ガバナンスを実現してシステムを向上させるツールの提供に取り組んでいる。

VoltaireとADA保有者

Cardanoにとって、分散型ガバナンスモデルはエコシステムが成長し成熟するためにどのような変更が必要であるかを決定する権利を、すべてのADA保有者に付与するものであるべきだ。十数年後ではなく百年後を見据えたエコシステムを構築するにあたって、ネットワークの自立性は極めて重要である。Cardanoエコシステムの個人はプロトコルについてなされた決定に最も影響を受けているため、こうした決定がどのようになされるのか、またどのように支払われるのか、さらに、どうやってそのプロセスに参加するのかを理解することは重要である。

Voltaire(ヴォルテール)は、分散型ガバナンスおよび意思決定を扱うCardano開発期である。ここでは、ソフトウェアの更新、技術的改良、プロジェクトの資金調達に関するCardanoコミュニティの決定能力に焦点を当てる。Cardanoを自立的なブロックチェーンへと変容させる最終コンポーネントを提供するために、ここでは以下を導入する必要がある。

  • トレジャリー(財務)システム:Cardanoブロックチェーンを開発するための継続的な財源
  • 分散型ソフトウェアアップデート:システムの発展に関する決定をするための公正な投票へ、分散型のオープンな参加を可能にするプロセス

これと並行して、IOHKのエンジニアはCardanoのガバナンスフレームワークを可能にするためのツールや社会実験を実装しており、現在は以下に取り組んでいる。

  • Cardano Improvement Proposals(Cardano改善提案:CIP):Cardanoコミュニティに透明性の高いオープンソース型の方法でガイドラインを提供する、公式な技術指向の規格、コード、プロセスを説明するためのソーシャルコミュニケーションシステム
  • Project Catalyst(プロジェクトカタリスト):提案と投票手続きを組み合わせた、実験的トレジャリーシステム

Project Catalystは、Cardanoコミュニティのために民主的な文化を確立することにより、トレジャリーシステムを実現することに焦点を当てている。この目標は研究、社会実験、コミュニティの承認を組み合わせることにより達成される。Catalystにより、コミュニティは提案し、それについて投票し、その実現可能性や監査可能性、インパクトに応じて資金調達を行うことができるようになる。

全員が、変更やシステム強化を提案する同等の権利を持つこと、そして革新的で強力な提案に関して協調することが奨励される点は重要だ。

全員に確実に発言権を持たせるために、現在誰もが改善案を提案できる投票案送信システムを構築している。これはシステムを維持するための提案かもしれないし、マーケティングを行うための、または既存のプロトコルを改良する提案かもしれない。さらに、IOHKはコミュニティが市場内で問題を解決することを意図した製品やアプリケーションを作成することができるようにしたいとも考えている。

こうした提案を行うために、人々はコミュニティに投票案を提出することができる。投票案が提出されると、どの提案を先に進めるかが投票により決定される。

投票はどの提案を受け入れるか却下するかを決定する影響力の行使である。全員参加を奨励することによってのみ、何を優先するかが民主的な方法で決定されることを確実にすることができる。しかしながら、Catalystの価値は技術的な改良にのみあるわけではない。これはまた、コミュニティがどのように協力し、よい決定を下し、さらに重要なことに、上質な提案を生み出すか学ぶことを可能にする。決定は、現在開発中の堅牢な一連の投票プロトコルを通じて採択される。これらはコミュニティが、自らを「専門家」として提案の説明を補助するべく立候補したメンバーの助けを得て査定する。

すべてのADA保有者が提案を提出できるが、個人の議決権は登録時にシステムに「ロック」したADAの量に比例する。投票することにより、参加者はネットワークの発展およびこれを維持するために、どの提案に資金を投入するかという決定に影響力を及ぼす。これはさらに、教材の作成やマーケティング戦略、技術的改良プロセス、その他多くのアイデアへと発展することもあるだろう。

Catalystのもう1つの特徴はプライバシーである。あらゆる政治的選挙と同様に、これは有権者への強制を避け、腐敗を防ぐための鍵となる。このためCardanoは、各投票におけるゼロ知識証明の実装を検討している。この暗号技術により、公開することなしに投票の検証が可能となり、プライバシーが守られる。

トレジャリーによる提案への資金提供

自立したネットワークに欠かせない要素は、誰が決定や提案に資金を提供するのか理解することだ。こうしたニーズを満たすために、Cardanoは自立的なトレジャリーシステムを採用し、ブロックチェーンの強化と維持の資金源とする。主要な財源はエポックごとにステークプールの報酬の一部により、そして後には新コインの鋳造、手数料の定率分、追加的寄付やチャリティによって補充される。

Project Catalystはこの恒常的な資金源を維持する。安定した収入がイニシアティブとADA保有者により提案された改良をサポートし、同時に生産的な決定を下すために時間と労力を費やした人々に報酬とインセンティブを提供する。これにより、参加、協力的決定、そしてインセンティブ化を奨励する分散型システムの確立を可能とする。資金調達の目的に加えて、Catalystはエコシステムにとって最も重要なニーズに対応しつつ、コミュニティに提案の査定を可能にする情報を提供することにより、資金が有効に使われることを保証する。

IOHKは、世界のニーズに対応することができる分散型金融システムを構築している。Voltaireはこれに向けた第一歩である。多くのコンセプト、ツール、実験を使用して、ブロックチェーンを民主化する完全な分散型エコシステムを創造し、これを世界に開放する。


今後のCardano形成に関心がありますか。Project Catalystでは、プログラムの方向を定め、アイデアを出し、プラットフォームと投票をテストするフォーカスグループに参加するコミュニティメンバーを25名募集しています。資金調達に適すると思われるアイデアがある方、またはコミュニティのアイデアを査定するパネルに参加したい方は今すぐご応募ください。応募の際にはTelegramまたはEメールアカウントが必要です。世界標準時8月8日土曜午前0時(日本時間8月8日土曜午前9時)締切り。

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