IOHKブログ:パラメーターと分散化の展望

日本時間12月7日にCardanoのkパラメーターを変更。その理由とは

2020年11月5日 Tim Harrison 読了時間10分

Shelleyが進化を続ける中、IOHKではCardanoエコシステムの健全な発展のサポートに努めています。この点から考慮すべき要素は、ウォレットユーザーによるADA委任操作のしやすさからステークプールオペレーターが使用するネットワークツールまで、さらにProject Catalyst(プロジェクトカタリスト)やVoltaire(ボルテール)などのガバナンスおよび資金調達の枠組みからコミュニティ主導のイニシアティブまで、多岐にわたっています。活力に満ちたプルーフオブステークネットワークとしてのCardanoの健全性の中心にあるのは、委任者やステークプールオペレーターがこれを運営することによって得られる報酬の仕組みであり、ネットワークの分散化と安全性を最大化するために、こうした報酬がそしていかに共有されるか、というその方法です。

システムはまだ、完全な分散化およびコミュニティ所有に向けての過渡期にあります。ネットワークを支えるジェネシスノードの影響は徐々に縮小されていき、もうまもなく、ブロックの大多数はコミュニティプールにより生成されるようになります。d(このプロセスを司るパラメーター)は着実に減少し、2021年3月末までにゼロに達し、これをもってCardanoにおけるすべてのブロック生成の完全な分散化が果たされます。

Shelleyの配信から4か月余り。報酬メカニズムのパラメーターを調整し、次の段階へネットワークの成長を促す時がきています。配信以来、私たちはネットワークの行動を監視し、コミュニティとエコシステムが発展する様子を目にしてきました。また、ここから生じるデータを基に、さまざまなシナリオを慎重にモデル化してきました。現在フルレビューを終え、哲学、科学、技術、そして実用性の観点から次のステップへ向けて調整しています。報酬スキームのパラメーターに更なる調整を施す前に、この下部メカニズム、そしてこれに関連するパラメーター調整により私たちが何を達成したいと望んでいるのかについて、コミュニティとその考えを共有したいと考えました。

プールの多様性によりサステナビリティを促進

何よりもまず、Cardanoの報酬-共有メカニズムは、プラットフォームをサポートしている人々に対し、公平に報いることを目指しています。ただしそこれはあくまで「サステナブルな」方法によるものであり、一過性のものでないことが重要です。ステーキングの目的の1つは、ADAの長期保有を奨励することです。これはすなわち、エコシステムの成功に深く関与するということです。

長期的には、このシステムは広く分散化がなされた場合にのみ成功します。哲学的には、報酬スキームのデザインは、幅広く多様性のあるステークプールオペレーター集団の形成を促すことを意図しています。これにより、プラットフォームは攻撃から守られ、利用可能な報酬はすべてコミュニティ全体に公平に分配され、システムは変化への耐性が増します。

多くの経済システムは、少数の強力なプレーヤーへ統合される傾向があります。一方、ブロックチェーンは管理が分散化されることによってのみ成功します。報酬共有スキームは、中小規模のプールが大規模なオペレーターやコンソーシアムに組み込まれるという他のブロックチェーン、特にビットコインに生じた事態を防ぎ、エコシステムに有意義な貢献ができるようにします。

少数の大規模なプールが集団的にシステムをコントロールするという傾向を抑えるには、プールの成長に反イニシアティブを導入することです。私たちが設計した報酬共有スキームは、この(暗号資産分野における)新たなコンセプトの一例です。1つのプールへのステーク委任が閾値を超過した場合、自動的に報酬額が減ることにより、このプールに委任しているADA保有者は報酬額を増やすために別の委任先を探すよう促されます。このメカニズムにより、任意のプールに合理的に行うことができる委任が制限され、委任されるステークはより多くのプールに公平に分散されます。

kについて

プールサイズにこの「ソフトキャップ」を設定する報酬スキームのパラメーターはkと呼ばれます。このメカニズムは、合理的な参加者があり、外的要因がないことを仮定して、同じサイズのk個のプールが委任するステークのユニットごとに同レベルの報酬を分配するとき、ステークホルダーがベストな反応を示すように設計されています。

Shelleyのメインネット配信に際し、kは150に設定されました。これはプールサイズをおよそ2億1000万ADAに制限するものです。これは、インセンティブ付きテストネット(ITN)で使用されたパラメーター値K=100をやや増やした値です。当時、この値は比較的保守的であるとみなされていました。ITNからメインネットへのスムーズな移行を確実にしたかったためです。開始以来、Shelleyはコミュニティと多数のプールから非常な関心を得ています。過去数か月にわたり、プールのステーキング状況を観察した結果、Kを増加方向に調整する必要があると認識しました。

しかし、kは少しずつ徐々に上昇させられるものではありません(例えば、徐々に減少していくdパラメーターとは異なります)。kを増加させるたびに、プールや委任者には何らかの行動が求められます。プールオペレーターには、自身のパラメーター、特にマージンを慎重に調整する必要が生じ、委任者には、特にその時点で委任しているプールが飽和状態に達してしまった場合に新たなプールをADAの委任先として選択する必要が生じます。

したがって、kの増加調整において最適な戦略とは、上げ幅を大きく、頻度を下げるというもので、実際のネットワークのダイナミクスと経済が許す限り遠くまで素早く動かすことです。「どの程度」そして「どれくらい素早く」がチームによる熱のこもった議論のトピックで、数々の技術的要因がこれをより複雑なものにしてきました。ベストな解決策とは、うまくいっているプールとその委任者の混乱を最小限に抑えながら、中小規模のプールによるブロックの生成と委任先としての魅力を最大化することです。同様に、可能な限り幅広く分散化を進めたコミュニティという長期的な戦略目標からも目を離さないことが重要です。

12月にはk=500へ移行

私たちは、慎重に計画した一連の変更に取り組んでおり、集めたデータを使用してその後の決定を通知します。したがって、kの変更は段階的な実装を予定しています。まず、エポック234(日本時間12月7日06:44)にk=500に変更します。k=500への移行により、低迷している中小規模のプールが委任を惹きつける機会が改善されます。また、これによりプールサイズも6400万ADA程度に制限されるため、100を超える大規模なプールが飽和状態となります。

ADA保有者は今後変更が実施されるまでの間、いつでも委任先を再設定できます。現在大規模プールに委任しており、ステーキングによる報酬を最大のままにしたい場合は、エポック233の間、日本時間12月7日06:44の新エポック境界となる前に、ADAの委任先を変更した方がいいかもしれません。とにかく、12月7日の1、2日前にDaedalusウォレットで贔屓のプールの飽和メーターに目を光らせておくことをお勧めします。6400万ADAを大幅に上回っている場合は、委任先の変更を考えるべきでしょう。報酬はそこそこ飽和状態のプールからは受け取ることができますが、6400万ADAを超えるほど着実に減少します。ただし、飽和過剰のプールに委任していても自分のステークを失うことはないことをここで明記しておきます。これは単純に、飽和したプールに委任したままでいると自分のステークへのリターンが減りますよ、ということです。コミュニティには常に委任先のチェックを怠らないよう推奨していますが、特にこの時期は重要です。

ステークプールの長期的な実行可能性をモデル化すると、k値を1000にした場合に長期的に安定することがわかりました。したがって、2021年3月中にk=1000に移行することを目指しています。私たちは、プールの収益性に強く影響する経済的要素の重要性を認識しており、このプランに関してコミュニティから幅広く意見を求め続けます。ネットワークの社会的ダイナミクスも過小評価するわけにはいきません。さらに議論を深めるために(コミュニティパネルやセミナーを含む)数多くの機会を提示していきながら、同時に変更についての理解を深め、その見解を寄せてもらえるよう、コミュニティに働きかけます。

戦略的および哲学的見地から、私たちはこれがCardanoにとって適切なアプローチだと信じています。現在ランキングでリードしているプールの積極的な貢献を認識しつつ、個別に運営されている多くのステークプール間で分散化が進むことを望んでいます。進化するエコシステムの実際的なダイナミクスにも注意を払う必要があります。3月末までに、分散化パラメーターのdもまたゼロに設定されます。これはCardanoにおけるブロックの生成が完全に分散化され、責任が現在ネットワークを運営しているほぼすべてのプール(そしてできればいくつかの新規参入プール)間で共有されることを意味しています。

特効薬はない

私たちは、kを500に変更することにより一定期間の混乱や変更を招いたとしても、エコシステムに利益がもたらされると信じています。しかし、これはすべてを解決するものではありません。今後はCardano分散化に明らかに影響する他分野においても考えを発展させていきます。ハードウェアウォレットの委任サポート(まもなく配信)はADAの供給を開放し、全体の利益となります。まもなく、1つのハードウェアウォレットから複数のプールへ委任する機能も追加されます。これは、Trezor(初期)、続いてLedgerの所有者が、ステークをさまざまなプールへ分散させるのに役立ちます。ステークプールサーバーの改良により、コミュニティメンバーは自身のプールリストをアレンジし、委任の選択肢を形作り操作するのに役立てることができるでしょう。私たちはまた、委任戦略を開発しながら、パブリックのIOGプール1つを残して他のすべてのプールを終了し、委任者には他のコミュニティプールにADAを委任するよう勧めます。パラメーターについては、現在プールオペレーターからの出資に関する一部モデル化を仕上げています。これは、ネットワークダイナミクスをADAがより広く分散する方向にシフトさせるのに役立つ、もう1つの要素です。これらのトピックについての詳細はもう少しお待ちください。

短期的に、k=500への移行は一部にとって重大な変更を意味するものであることを認識しています。大規模なプールへの委任者が反応しなければ、プールによっては過剰飽和を起こし、報酬は請求されなくなります(報酬が失われることはありませんのでご注意ください。すべて将来的にコミュニティが利用できるようシステムのリザーブに戻されます)。結果として、プールオペレーターは短期的にマージンやコストを調整して収益性を維持し、委任者に行動を促す必要が出てきます。これはコミュニティの努力を必要としますが、Cardanoエコシステムの分散化を最大化するためには欠かせないステップです。スマートコントラクトとマルチ通貨のサポートはまもなくCardanoに導入されます。ハイレベルの分散化はエコシステムの宝となり、他のブロックチェーンに対する強い競争力となります。

kを増加させることは、Cardanoの使命を果たす上で重要なステップです。この変更はある程度の混乱をもたらすため、コミュニティには変化を消化し、戦略を調整するための十分な時間を提供したいと考えています。さらに、コミュニティがCardanoの長期にわたるサステナビリティにとって正しい判断を下せるよう手助けをしたいと思っています。今後数週間、数か月にわたり、この経験の改善を続けながら、このアプローチを支えるために、より多くのコンテンツ(適切な委任先の見つけ方ガイドを含む)を公開していく予定です。

最高レベルの分散化を達成することはすべてのブロックチェーンシステムにとっての最終目標です。分散化は、Cardanoエコシステムが繁栄するための堅固な基盤となります。真の分散化は純粋に数学的定理から導き出せるものではなく、パラメーターや式の調整だけでは決して十分ではありません。それは、他のブロックチェーンと比べて大きな進歩を遂げたCardanoといえども同様です。それでも、最終的に、真の分散化はCardanoコミュニティの集団的な意思と行動から生じます。この道を一緒に進みながら、ステークプールが自身のブランドを構築できるような追加的アプローチを調査し、委任者とコミュニケーションをとり、彼ら自身の貢献と使命をより直接的に強調していきます。

本稿の執筆にあたりアイデアを提供してくれたAggelos Kiayias、Colin Edwards、Olga Hryniuk、Francisco Landino、また、Aikaterini-Panagiota StoukaおよびElias Koutsoupiasの研究者諸氏に感謝申し上げます。

12月7日の実施に向けて、委任者やステークプールオペレーターをサポートするために月を通じて定期的に情報を発信していきます。最新情報を見逃さないよう、Twitterをフォローし、YouTube を登録してください。

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